不動産売却の告知義務|告知書に何を書くべきか、書かないとどうなるのか
不動産を売却する際、多くの方が価格交渉や引渡し時期に注目しがちです。
しかし、「告知義務」という売主の重要な責任を軽視してしまうと、売却後に予想外のトラブルに巻き込まれる可能性があります。
「雨漏りがあったけど、修理したから大丈夫だろう」
「隣の家との境界線が曖昧だけど、今まで問題なかったし」
こうした軽い気持ちで物件の状態を伝えなかった結果、買主から損害賠償を請求されたり、契約解除を求められたりするケースが実際に発生しています。
この記事では、不動産売却において売主が必ず知っておくべき「告知義務」について、具体的にどんな情報を伝える必要があるのか、そして告知を怠るとどんなリスクがあるのかを詳しく解説していきます。
告知義務とは?売主が負うべき責任を正しく理解する
不動産売買における告知義務の基本的な考え方と、法的な責任について解説します。
告知義務の法的な意味
不動産売買における告知義務とは、売主が知っている物件の重要な事項を、買主に対して正確に説明する義務のことを指します。
特に中古物件の取引では、買主は物件を実際に見ても気づかない欠陥や問題点が存在する可能性があります。
売主は物件に長く住んでいたり、所有していたりする中で、物件特有の不具合や周辺環境の特徴を把握している立場にあります。
そのため、買主が購入を判断する上で重要となる情報を提供する責任があるのです。(民法)
この告知義務は、買主が物件の状態を正しく理解し、納得した上で契約を結ぶために欠かせない手続きといえます。
告知しないと何が起こるのか(損害賠償・契約解除のリスク)
告知義務を怠った場合、売主には深刻な法的責任が発生する可能性があります。
もし売主が不具合や問題点を知りながら買主に伝えなかった場合、たとえ売買契約書に「売主は責任を負わない」という特約が記載されていたとしても、その特約は無効となる可能性が高いのです。
【売買契約書の確認事項】
具体的には、以下のような法的責任を問われることがあります。
修繕費用の負担 :不具合の修理にかかる費用を売主が負担する
代金減額請求 :物件の価値が下がった分の返金を求められる
損害賠償請求 :買主が被った損害の賠償を求められる
契約解除 :契約そのものを取り消される
【契約不適合責任とは】
特に、雨漏りやシロアリ被害、地中埋設物などの物理的な欠陥や、過去の事件・事故といった心理的瑕疵を隠していた場合は、高額な賠償請求に発展するケースもあります。
「知らなかったことにしよう」という考えは、結果的に大きな経済的損失を招くリスクがあることを理解しておきましょう。
【建物売却トラブル事例】
告知すれば責任を回避できる仕組み
一方で、告知義務を正しく果たすことで、売主は将来のトラブルから身を守ることができます。
重要なポイントは、売主が知っている欠陥や不具合を事前に買主に説明し、買主がそれを了解・容認した上で契約した場合、その説明した欠陥や不具合について売主は原則として責任を問われなくなります。
たとえば、「過去に雨漏りがあり、5年前に修理しました。その後は問題ありませんが、再発の可能性はゼロではありません」と正直に伝えた上で買主が納得して購入すれば、万が一また雨漏りが発生しても、売主は責任を問われにくくなります。
告知義務は、売主にとって「面倒な義務」ではなく、自分自身を守るための重要な手続きなのです。
正直に情報を開示することで、買主との信頼関係を築き、安心して取引を完了させることができます。
物件状況確認書(告知書)に書くべき項目
物件状況確認書は、売主しか知り得ない情報を買主に伝えるための重要な書類です。
具体的にどんな項目を記載すべきか、カテゴリー別に詳しく見ていきましょう。
建物に関する告知事項(雨漏り・シロアリ・傾きなど)
建物の物理的な状態に関する情報は、買主の購入判断に大きく影響します。
主な告知項目は以下の通りです。
雨漏りの有無 現在雨漏りしているかだけでなく、過去に雨漏りがあって修理した履歴も必ず記載してください。 「もう直したから大丈夫」と考えて伝えないと、後々トラブルになる可能性があります。
シロアリ(白蟻)の被害や駆除歴 過去に被害があった場合や駆除を行った時期、その後の定期点検の有無なども含めて伝えることが大切です。
建物の傾き、腐食、サビなどの構造的な不具合 床が傾いている、柱に亀裂がある、外壁にサビが出ているなど、気づいた点は具体的に記載してください。
給排水施設の故障や漏水 水道管からの漏水、排水の詰まり、給湯器の不具合などがあれば記載しましょう。
増改築・修繕・リフォームの履歴 特に、壁や柱を撤去するなど構造耐力に影響を及ぼす可能性のある変更を行った場合は、詳しく記載する必要があります。
火災の被害状況(ボヤなどの軽微なものを含む)
石綿(アスベスト)の使用調査結果の記録の有無
建物状況調査(インスペクション)の実施状況
耐震診断に関する資料の有無
これらの情報を正確に記載することで、建物の状態を買主に正しく理解してもらうことができます。
土地に関する告知事項(境界・越境・地中埋設物など)
土地に関する情報は、将来的な近隣トラブルを防ぐために非常に重要です。
主な告知項目は以下の通りです。
隣地との境界が確認できるか 境界杭や境界標が設置されているか、隣地所有者との間で境界確認が済んでいるかを明記してください。 境界が曖昧な場合、後々隣地とのトラブルに発展する可能性があります。
【隣人トラブルが不動産売却に及ぼす影響】
屋根や植木などの隣地や道路への越境 自分の建物の屋根が隣地にはみ出している、庭木の枝が隣の敷地に伸びているといった状況があれば、具体的に伝えましょう。
擁壁の所有者や亀裂の状況 擁壁に亀裂や傾きがある場合、将来的に崩落のリスクがあるため、必ず記載してください。
地盤の沈下や軟弱 過去に地盤沈下があった、建物が傾いた経験がある場合は、その詳細を記載しましょう。
土壌汚染に関する情報 把握している範囲で記載してください。 特に、過去に工場や事業所として使用されていた土地の場合は注意が必要です。
地中埋設物(旧建物の基礎、使用していない浄化槽、井戸など) これらの埋設物は、買主が建物を新築する際に撤去費用が発生する可能性があるため、知っている情報はすべて伝えるようにしましょう。
土地に関する正確な情報提供は、買主が安心して土地を活用するための基礎となります。
周辺環境に関する告知事項(騒音・浸水・近隣施設など)
物件そのものだけでなく、周辺環境に関する情報も告知義務の対象です。
主な告知項目は以下の通りです。
騒音・振動・臭気の発生源と状況 一般的な観点から判断して気になると思われる場合に記載します。 たとえば、近隣に工場があって日中に機械音が聞こえる、幹線道路沿いで交通騒音がある、飲食店からの臭いが気になるといった状況です。 「自分は気にならない」と思っても、買主にとっては重要な判断材料になる可能性があります。
浸水の事実 床上・床下を問わず必ず記載してください。 過去に台風や豪雨で浸水した経験がある場合、その時期や被害状況を具体的に伝えましょう。 また、周辺地域が浸水の多い地域である場合も、その事実を記載する必要があります。
売買物件に影響を及ぼすと思われる周辺施設 たとえば、ゴミ集積所が目の前にある、近くに暴力団事務所がある、墓地が隣接しているといった情報は、買主の購入判断に影響する可能性があるため、記載が必要です。
近隣の建築計画 隣地で大きなマンションが建設される予定がある、目の前に高層ビルが建つ計画があるといった情報を知っている場合は、必ず伝えましょう。
これらの環境情報を正直に伝えることで、買主が実際に住んでから「こんなはずじゃなかった」と感じるリスクを減らすことができます。
心理的瑕疵に関する告知事項(事件・事故の履歴)
物理的な問題だけでなく、心理的な影響がある事実も告知義務の対象です。
過去に起きた事件・事故で、買主に心理的影響があると思われる事実があれば、その内容を記載する必要があります。
具体的には、売買物件での自殺、殺傷事件、特殊清掃が行われた自然死などが該当します。
「何年も前のことだから」「もう関係ないだろう」と判断するのではなく、事実を正直に伝えることが重要です。
近年、国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、告知すべき範囲や期間について一定の基準が示されていますが、判断に迷う場合は必ず不動産会社の担当者に相談してください。
心理的瑕疵の告知を怠った場合、物理的な欠陥以上に大きなトラブルに発展する可能性があるため、慎重に対応しましょう。
引き継ぐべき事項(自治会の取り決めなど)
物件を購入した後、買主が引き継ぐ必要がある事項も告知の対象です。
近隣地域(自治会・町内会等)での協定や取り決めについて、知っている情報は記載してください。
たとえば、以下のような項目が該当します。
ゴミ集積場所の当番制や清掃ルール
自治会費や町内会費の金額と支払い方法
地域の祭りやイベントへの参加の習慣
共用部分(道路、公園など)の管理ルール
駐車場の使用に関する取り決め
これらの情報は、日常生活に直結するため、買主にとって非常に重要です。
「購入してから知った」とならないよう、事前にしっかり伝えることで、スムーズな引き継ぎが可能になります。
付帯設備表との違いと正しい記入方法
物件状況確認書とあわせて、売買契約時には「付帯設備表」も重要な書類となります。
付帯設備表の目的は、売買対象となる設備の有無と、判明している故障・不具合の具体的内容を明らかにすることです。
物件状況確認書が「物件全体の状態や周辺環境」を説明するのに対し、付帯設備表は「個別の設備」に焦点を当てた書類といえます。
対象となる設備の例としては、以下のようなものがあります。
給湯設備(給湯器、ボイラーなど)
キッチン設備(ガスコンロ、IHクッキングヒーター、換気扇、食器洗浄機など)
浴室設備(浴槽、シャワー、換気扇など)
トイレ設備(温水洗浄便座など)
空調設備(エアコン、床暖房など)
照明器具
物置、カーポート
引渡し時の状況を記入することが重要なポイントです。
付帯設備表に記載する「設備の有無」は、売買契約締結時ではなく、買主に引き渡す時点の状況を記入します。
たとえば、契約時にはエアコンが設置されていても、引き渡しまでに撤去する予定であれば「無」にチェックをつけます。
備考欄に「撤去予定」などと記載すると親切です。
善良な管理者としての注意義務も忘れてはいけません。
売主は、買主に引き渡す付帯設備について、引き渡しまでの間は善良な管理者としての注意義務をもって契約時の状態を保持するように努めなければなりません。
つまり、契約してから引き渡しまでの間に、適切な管理を怠って状態を悪化させたりしてはいけないということです。
具体的な記入時の注意点としては、以下が挙げられます。
「判明している故障・不具合の具体的内容」欄には、できるだけ詳しく記載する
「時々作動しない」「音が大きい」など、完全に壊れていなくても気になる点は記載する
備考欄を活用して、補足情報を追加する
付帯設備表も物件状況確認書と同様に、曖昧な記載や情報の隠蔽は後々のトラブルの原因となります。
正直かつ詳細に記入することで、安心して売却を進めることができます。
告知書作成で失敗しないための3つのポイント
告知書を正しく作成し、トラブルを未然に防ぐための重要なポイントをまとめました。
知っていることは全て具体的に書く
告知書作成で最も重要なのは、売主が知っている不具合や瑕疵を正確に、詳細に記載することです。
「これくらいなら書かなくてもいいかな」という自己判断は禁物です。
法律上の責任を回避するためには、少しでも気になる点があれば、すべて記載するという姿勢が大切です。
たとえば、「10年前に一度だけ雨漏りがあったが、すぐに修理して以降は問題ない」という情報でも、買主にとっては重要な判断材料になる可能性があります。
また、「自分は気にならないけど、他の人は気になるかもしれない」という視点も重要です。
騒音や臭気、周辺施設などの環境要因は、人によって感じ方が大きく異なります。
自分の基準ではなく、「一般的な人が気になる可能性があるか」という観点で判断しましょう。
曖昧な表現を避け、第三者が理解できる記載を心がける
告知書の記載内容が曖昧だと、将来的に買主との間で認識のズレが生じ、トラブルの原因となります。
設備の不具合についても、「時々調子が悪い」ではなく、「冬場に給湯器の点火に失敗することがある」といった具体的な状況を記載することで、買主が正確に状態を把握できます。
「判明している故障・不具合の具体的内容」欄や「備考欄」を積極的に活用し、第三者が読んでも理解できるように具体的に記入してください。
判断に迷ったら不動産会社に相談する
告知書を作成する中で、「これは書くべきかどうか」「どこまで詳しく書けばいいのか」と迷う場面が必ずあります。
そんな時は、一人で判断せず、必ず不動産会社の担当者に相談してください。
不動産会社は多くの売買取引を扱っており、どのような情報が「重要な事項」にあたるのか、過去の事例を踏まえてアドバイスしてくれます
特に、心理的瑕疵や周辺環境に関する事項は、告知すべきか否かの判断が難しい場合があります。
専門家の意見を聞くことで、適切な記載内容を確定させることができます。
当社では、告知書作成のサポートも丁寧に行っておりますので、遠慮なくご相談ください。
よくある質問
不動産売却における告知義務について、よくいただく質問にお答えします。
Q.自分も知らなかった不具合が後から見つかった場合は?
A. 売主が本当に知らなかった不具合については、原則として責任を問われにくいとされています。
告知義務は「売主が知っている情報」を伝える義務であり、売主自身が認識していなかった欠陥まで責任を負わせるものではありません。
ただし、「知らなかった」と主張しても、「通常の注意を払っていれば気づくはずだった」と判断される場合は、責任を問われる可能性があります。
そのため、売却前には物件の状態をできるだけ丁寧に確認し、気になる点があれば専門家に調査を依頼することも一つの方法です。
また、建物状況調査(インスペクション)を実施することで、専門家の目で建物の状態をチェックしてもらうことができます。
【インスペクションとは?】
Q.告知書は誰が作成するのですか?
A. 告知書は売主が作成します。
不動産会社が用意した書式に、売主自身が記入する形が一般的です。
売主しか知り得ない情報を記載する書類であるため、不動産会社が代わりに記入することはできません。
ただし、記入方法がわからない場合や、どこまで詳しく書けばいいのか迷う場合は、不動産会社の担当者がサポートしてくれます。
当社では、告知書の記入方法について丁寧にご説明し、記載内容のチェックも行っておりますので、初めて不動産を売却される方でも安心です。
わからないことがあれば、遠慮なく質問してください。
まとめ:告知義務を正しく果たして安心の不動産売却を
不動産売却における告知義務は、売主にとって「面倒な義務」ではなく、将来のトラブルから自分自身を守るための重要な手続きです。
物件状況確認書(告知書)には、建物の不具合、土地の状況、周辺環境、心理的瑕疵、引き継ぐべき事項など、売主が知っているすべての情報を正直に記載することが求められます。
「これくらいなら言わなくても」という軽い気持ちで情報を隠すと、後々高額な損害賠償や契約解除といった深刻なトラブルに発展する可能性があります。
逆に、正直に情報を開示し、買主がそれを理解した上で契約すれば、売主は原則として責任を負わなくてよいのです。
告知書を作成する際は、以下の3つのポイントを意識してください。
知っていることはすべて具体的に書く
曖昧な表現を避け、第三者が理解できる記載を心がける
判断に迷ったら不動産会社に相談する
付帯設備表についても、引き渡し時の状況を正確に記載し、設備の故障や不具合を具体的に伝えることが大切です。
当社で、告知書の作成から売却完了まで責任を持ってサポートいたします。
宅地建物取引士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ担当者が、お客様の状況に応じた適切なアドバイスを提供し、安心して不動産売却を進めていただけるようお手伝いいたします。
告知義務を正しく理解し、誠実に対応することで、売主も買主も満足できる不動産取引を実現しましょう。
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